実に6年ぶりとなるTHE NINGLERSの新作フル・アルバムが完成に至った。題して『ROCK’N’ROLL LOSER』。まるで弾薬のような全12曲が並ぶこの作品の最後に収められたタイトル・トラックの幕切れに聴こえてくるのは、「負けを知った俺には、どんな奴も勝てない」というZetsuの心の叫びだ。
僕がこのバンドを「仙台のAC/DC」などと敬意と愛着を込めて呼ぶようになってから、すでに10年以上が経過している。結成は2000年。つまりもう3年もすればバンドとして成人式を迎えることになるわけだが、彼らは現在も世間一般で言われるところの成功からは程遠い場所にいる。ぶっちゃけ、音楽だけで生計を立てているメンバーは一人もいない。プロかアマチュアかと問われれば、残念ながら後者のほうということになる。が、この音を出すバンドとして彼ら以上にプロフェッショナルな連中を、僕はあまり知らない。
ワーキング・クラス・ヒーローという言葉があるが、THE NINGLERSのロックンロールにはまさに労働者階級のリアルが染み付いている。高級車を乗り回すロック・セレブたちが過去の不遇時代に思いを馳せながら大衆に寄り添った歌詞を吐くのとは、根本的にまるで違う。ここに反映されているのは、彼らの現在進行形の日常的感情なのだ。
「労働と人生に疲れ切っているからこそロックンロールをぶっ放したくなる。これは、メジャーなプロ・ミュージシャンにはわからない感覚だと思う」
彼らは異口同音にこんなことを言う。ライヴハウスで大音量の中に身を置き、汗をかき、誰にも遠慮することなく大声で喚き散らすこと。それが、ステージ上の演者にとってもフロアにひしめく者たちにとっても極上のフラストレーション発散の手段であることは言うまでもない。シンプルな言い方をすれば“憂さ晴らし”ということになるだろう。日々の生活に渦巻くネガティヴから逃れるために、酒を呑むようにロックを転がす。それは彼らにとって、明日も前を向いて生きていくために必要不可欠な行為だといえる。そんな、生きるためにロックを必要としている奴らの音だからこそ、グッとくるのだ。
しかも彼らが長年をかけて鍛錬と精製を重ねてきたハイ・ヴォルテージなロックンロールは、狭苦しいライヴハウスで聴いていても、そこが巨大スタジアムであるかのような心地好い快感をもたらしてくれる。いわば、ワーキング・クラスのスタジアム・ロック。こんな音を鳴らしておきながら“ルーザー”を自称できる男っぷりの良さに、惚れ直さずにいられない。THE NINGLERSと、奴らを愛する皆さんに幸あれ!
2017年3月 増田勇一
増田勇一
@youmasuda
『BURRN!』『MUSIC LIFE』での編集者生活を経て1998年よりフリーランスに。ガンズ馬鹿一代ぶりが凝縮された『ガンズ・アンド・ローゼズとの30年』、毎月5日発売の『BURRN!』、そして2月20日に発売された『MASSIVE Vol.25』もよろしくお願いします!